高齢者が住み慣れた自宅で長く暮らすために、健康であることと怪我をしないことはまず一番に大切なことです。言い換えればいかに病気と転倒を予防できるかが高齢者の生活を守っていく上でポイントとなるでしょう。
本記事では高齢者の転倒予防について、介護の専門職であるケアマネジャーが原因や予防策について分かりやすく解説しています。実際の日々の支援の中でよく起こる転倒の事例や有効な予防策をもとに解説していますので、是非今後の参考にしてください。
この記事では以下のことについて知ることができます。
- 高齢者の転倒の原因
- 高齢者の転倒によるリスク
- 高齢者がよく転ぶ場所
- 高齢者の転倒を予防するための具体的な方法
介護に関わっていない人でも分かりやすいようにまとめていますので、是非最後までご覧ください。
高齢者の転倒の原因
人は年齢を重ねるごとに体力や筋力が低下し、歩行状態の悪化やバランス感覚の低下でどうしても転びやすくなります。ここでは高齢者が転倒する原因について詳しくふれています。転倒のメカニズムを知る事で予防のポイントが分かるでしょう。
身体機能の低下
高齢による筋力低下が多くの人にあてはまる転倒原因の一つです。筋肉量が減っていくことに加えて、運動や活動の機会も無くなっていくと当然足の力はどんどん低下します。
一旦落ちた筋力をもとに戻すことは高齢になるほど難しく、転倒不安に繋がります。転倒不安⇒運動や歩行の減少で悪循環になり、あっという間に筋力が低下してしまいます。
またパーキンソン病や脳血管障害等の病気が原因で歩行障害が起こる事もあり、それらの病気も高齢になるほど発症のリスクは増します。
認知機能(注意力)の低下
身体機能の低下と同じように高齢になると認知面や注意力の低下で転倒に繋がることもあります。たとえば段差に気付かず躓く頻度が増えるとか、咄嗟の時に体が反応でず、体を守る動作ができないことなどがあげられます。
認知症により危険認知ができず自分にできないことをして転倒や転落して大けがをしてしまう人もいます。
環境面
生活環境が転倒の要因になることも多いです。特に段差は筋力低下した高齢者にとって気を付けないといけない要因の一つで、日々意識しながら生活することが大切になります。
段差だけでなく滑りやすい素材やいつもと違う物があると、足をとられる原因になり、思いもよらない転倒につながってしまいます。
環境面についてはあとから「よく転倒する場所」として詳しく取り上げ、気を付けるポイントも紹介します。
薬の影響
高齢になると病気のリスクが上がり、それに応じ薬の数も増えていきます。薬には色々な副作用があり、その中に眠気やめまい、ふらつきなどが生じることがあります。
これらの副作用は転倒に直結する症状のため、注意が必要です。薬を飲む時には必ず副作用について確認し、生活に支障をきたすような症状があらわれたら、すぐに主治医に相談する必要があります。
高齢者の転倒によって起こる大きなリスク
高齢者が転倒すると骨折や入院で著しく身体状況が低下し、これまでしていたことが出来なくなったり、自宅生活の継続が難しくなることもあります。ここでは転倒してしまったら具体的にどんなリスクがあり、その後の生活への影響についてふれています。
寝たきりになる可能性
転倒すると一番大きな問題は骨折です。毎回寝たきりになる原因の上位に骨折はランクインしており、高齢者の人生を脅かすことになります。
高齢になるとどうしても骨密度が減り骨折しやすい体になってしまうので、日頃から転倒に気を付ける事はもちろん、バランスの良い食生活や日光にあたるなど、骨にとって良い習慣を続ける事も大切です。
特に女性は男性に比べると骨密度の数値が低く、骨折のリスクが高いことも認識しておくと良いでしょう。
外出意欲の低下
一度転倒すると転ぶことが怖くなって外出を控えてしまいがちです。そうなると徐々に引きこもりの癖がついてしまい、外に出る事が日常的におっくうになってしまいます。
気持ちが低下すると体を動かす機会が減り、筋力が低下。さらに転びやすい体になってしまうという悪循環に陥ってしまうことも大きな問題です。
心と体は一体と言いますが、まさにその通りで、気持ちが弱ると体もどんどん弱くなって健康的な生活から離れてしまいます。
施設入所
転倒してこれまでのように動けなくなり、自宅生活が難しくなる人は少なくありません。特に足を骨折して車椅子生活になると、自宅環境が適していないこともあり、施設入所という選択をすることも多いです。
本人としてはできるだけ長く自宅生活を続けたい思いはあるかもしれませんが、転倒をきっかけに自宅生活を諦める結果になってしまいます。
高齢者が転びやすい場所と特徴
自宅と屋外で転びやすい場所と理由について説明しています。予防するポイントにも繋がるので参考にしてください。
自宅で転びやすい場所について
リビング | 日中で一番利用するリビングですが、カーペットの端に躓いたり、冬場はコタツ布団に足をとられるなどで、転倒することが多いです。また新聞やチラシが床においてあるのに気付かず滑ってしまったり、コードにひっかる事もあり、リビングは転倒要因が多く潜んでいます。 |
廊下 | 廊下は移動距離が長くなり転倒のリスクは上がります。特に夜間は視界が悪かったり、ふらつきやすいので要注意です。またスリッパに足を取られて転ぶ人も多く廊下での転倒割合は高くなります。 |
お風呂 | お風呂も高齢者の事故リスクの高い場所です。転倒リスクとしては濡れたタイル等で滑るほか、入浴による血圧の変化でふらついてバランスを崩すなどが転倒の原因となります。 |
玄関 | 外出の際は必ず玄関を経由しますが、靴を履くときにバランスを崩したり、上がり框の段差でバランスを崩すなどが転倒の要因にあげられます。 |
屋外で転びやすい場所について
庭先 | 庭がある家はどうしても手入れや草取り等で無理をしてやってしまうことが多く、その結果転倒したり尻もちをつくことはあります。飛び石や砂利に足を取られることもあり、庭には障害物が多いのでどうしても転倒リスクは上がります。 |
駐車場 | よくある転倒の例として駐車場にある車止めに足を引っかけて転ぶことがあげられます。下がコンクリートなので衝撃が強く、大きな怪我になってしまうため注意が必要です。 |
お店 | 意外かもしれませんがスーパーも転倒する場として気を付けないといけません。商品に気を取られて人や物にぶつかったり、カートが軽くて前のめりになったりと筋力のない高齢者にとっては転倒リスクのある場所といえます。 |
高齢者の転倒を予防する具体的な方法
これまで高齢者の転倒リスクや転びやすい場所について説明してきましたが、ここでは転倒を予防するための具体的な方法を4つあげています。
どれもすぐに取り組める内容ですので、参考にしてください。
環境を整える
転倒は環境要因が大きいため、環境を整える事で予防することができます。具体的には自宅内の段差を解消したり、転倒しやすい廊下であれば手摺を取り付けるなども効果的です。
自宅の中で転倒しやすい箇所をあらかじめピックアップし優先順位を付けながら環境整備を行うことをお勧めします。
また足に引っ掛かるカーペットやこたつ布団等は配置に十分に気を付け、可能であればファンヒーターやエアコン等の暖房器具を活用することも一つの方法でしょう。
身体機能を維持・向上させる運動習慣
環境面はすぐにでも改善できますが、並行して行う予防策に本人の身体機能を維持または向上させることも有効です。
ただし本人に取り組んでもらう事であり、やる気や習慣によって大きく左右されるため、環境整備にくらべるとハードルは高いものになります。またやみくもにやっても効果が上がらないので、出来ればリハビリ専門職からの助言をもとにメニューが組まれると良いでしょう。
最近はリハビリ職が高齢者向けの自宅でできる運動や予防体操等の動画を多くあげていますので、参考にしてみてください。
椅子に座って無理なくできる運動も多く、短時間でも続けることで大きな効果を得ることができます。
病気の予防と薬の管理
転倒を予防するためには、ベースである体が健康であることが大切です。転倒原因でもあげましたが病気をすることで基礎体力が落ちたり、ふらついたりすることが多く、転倒の前に病気を予防することが大切です。
また服薬についても飲み忘れや間違って飲むことで体に大きな影響があるため、今薬を飲んでいるのであれば、今一度どんな薬を飲んでいるのか、また間違いなく飲めているのか、どんな副作用があるのかを把握しましょう。
高齢者本人であれば認識が薄いため、家族が確認し、適切な服薬ができているか、服薬による眠気やふらつきはないかなど確認する必要性はあるでしょう。
福祉用具やサービスの利用
最近は色々な便利な福祉用具が売られていたり、レンタルもすることができます。代表的なものは歩くときに使う杖や歩行器などですが、介護保険サービスを利用することが出来れば、安く利用をすることもできます。
最後に
人の大きな希望の一つに長年住み慣れた自宅や地域で、最期まで生活したい思いがあるでしょう。その為にはいつまでも自分の足で歩き、自立した生活を送ることが重要です。
今回本記事でお伝えしたことをしっかり生活の中に取り込んでいただき、悠々としたシニアライフを楽しんでいただきたいと思います。
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