日本の高齢者の介護問題には超高齢化が背景にあり、令和5年度の高齢者が総人口に占める割合は、過去最高の29.1%を記録しています。今後も超高齢社会のなか独居世帯や認知症高齢者も増え、一つひとつの問題がより深刻になっていきます。それは高齢の親から離れて暮らす子どもたちもその介護問題に直面している状況といえます。
今回は高齢者の介護における大きな問題についてあげ、その状況にある原因や背景を説明し、それらに合わせた対策を介護の知識がない人でも分かりやすく紹介します。
介護の問題は個々の家庭だけの問題ではありません。社会全体で意識を高め、具体的な解決策を見つけるべき課題です。今回の内容を見ていただくことで介護問題の大枠を理解でき、在宅介護にとって役に立つ情報になりますので、是非最後までご覧ください。
介護難民の増加
高齢者の介護問題において「介護難民」の増加はよく話題にあげられ、特に団塊世代が後期高齢者になる2025年が間近になっていることで、より切迫した状況にあります。ここでは「介護難民」=「適切な介護を受けられずに孤立する高齢者」が今増加している原因についてあげ、その原因に対しての対策についてもふれてみましょう。
介護難民の増加の原因と背景
「介護難民」の増加は、最近特によく耳にするようになりました。具体的な数値ははっきり分かりませんが、参考データとして特別養護老人ホームの令和4年度の待機者数は27万人以上といわれています。介護難民増加の背景には様々な要因が絡み合っており、主な要因について次にあげてみます。
家族介護の変化
近年「家族介護」のあり方が大きく変わりつつあります。かつては、親が高齢になれば子どもが介護を担うのが一般的でした。しかし、現代社会では核家族化や夫婦共働きの増加などにより、家族が直面する介護の現状は大きく変化しています。
家族が介護を担うことは「どうして良いか分からない」「いつまで続くのか」といった精神的な負担が大きく、介護者自身の健康を害することもあります。またお金もかかる場面も多く、1人で抱えこめばどんどん自分を追い込んでしまうことになりかねません。これらの問題が重なると虐待のような適切な介護を受けられずに孤立する高齢者が増えてしまいます。
老老介護と認認介護
高齢者がさらに高齢の配偶者や親を介護する「老老介護」は介護世帯の約6割を超え、介護の原因のうち23%を占める認知症の高齢者も増加の一途をたどっている状況です。(令和4年国民生活基礎調査の介護状況)また介護する高齢家族も認知症になる「認認介護」も現在の状況からさらに深刻になるでしょう。
老老介護や認認介護は、特に介護の負担が大きく、精神的なストレスの大きさや適切な介護が難しいという問題から、介護者が病気になったり大きな事故につながるリスクもあります。
人材不足とサービス資源の地域格差
介護人材の不足は大変深刻で他産業に比べても有効求人倍率は大きく上回り、3.73倍(平均1.12倍)となっています。介護に対するマイナスイメージや給料面からなかなか人材が安定しない状況が続いています。
また地域によって介護サービスの資源に大きな格差が存在します。都市部では比較的多様なサービスが利用可能で、外国人介護者の導入も広がり、ある程度安定した支援を提供できています。
一方で地方や過疎地では、サービス資源は限られているところが多く、住み慣れた自宅で過ごしたくても支援する人が不足することで、施設に入所したり、住み替えを余儀なくされる人もいます。この地域格差が「介護難民」や希望した生活の継続が困難になる高齢者の増加につながっています。
介護難民の増加における対策
ここまで「介護難民」の増加における原因についてふれてまいりました。この問題を解決するためには、様々な対策が必要です。以下にいくつか対策についてふれていますので参考にしてください。
介護サービスをもっと利用しやすい制度に
まず、介護サービスの利用をもう少し容易にすることが重要です。できるだけ人に頼らないことを美とする人は多く、大変でも介護保険制度の活用を控える方が一定数おられます。介護が必要な人が気軽に助けを求められる社会づくりと利用のハードルを下げる仕組みをつくることが求められます。
また、地域によるサービス資源の格差を是正し、ニーズに応じたサービスを利用できる環境を整備することも大切です。都市部以外の地方でも十分なサービスを選べる仕組みづくりが急務で、特に山間部は介護を必要とする人の自宅にサービス提供者が行くことが大変困難な状況です。山間部等で頑張っている事業所に対して、もう少し手厚い報酬加算があると供給が増えることに繋がります。
家族介護の負担軽減
次に、家族や地域コミュニティにおける支援体制の充実が必要です。問題の中でもふれましたが家族が介護を担うことは、精神的、経済的な負担が大きく、介護者自身の健康を害するリスクもあります。
普段から行政や介護の専門職が家族負担に気づける相談体制を地域単位でつくり、連携を深めることで迅速なサポートにつながります。早めの相談は介護離職や健康被害など、介護を起因とする大きなリスクを回避することもできます。
また介護者自身の健康管理や心のケアも重要です。介護者が自身の健康を維持し、ストレスを適切に解消できるよう、健康増進プログラムの推進や家族会の参加への促しなど、心身が健康な状態をできるだけ保てるようなはたらきかけを行う必要があります。
介護予防をすすめる
介護状態になる前にできるだけ健康状態を維持できるよう介護予防への取り組みも大変重要で、幸福感へもつながります。高齢者自身が自立した生活を送るための支援として生活習慣の改善や適度な運動、栄養バランスの良い食事など、健康的な生活を維持するための情報を多く知ってもらい、より意識的に国民全体で取り組むことが重要でしょう。
具体的には地域で行われている介護予防体操や健康づくりに関する講習などがあげられます。社会福祉協議会や地域包括支援センターが中心となって定期的に開催しているので、伺ってみてはいかがでしょう。
高齢者虐待
高齢者の問題として虐待も大きな問題として認知されています。よく施設等で虐待があることがニュースで流れますが、実際には自宅での件数が大変多く、潜在的な数をあげると実際にはもっと多くの方が対象となる可能性があります。
高齢者虐待の原因と背景
令和4年度の高齢者虐待の発生件数(自宅で介護をしている家族や親族、同居人)は、なんと1万6,669件に上りました。その内訳を見てみると、身体的虐待が65.3%、心理的虐待が39.0%、ネグレクトが19.7%、経済的虐待が14.9%となっています。
虐待の要因を探ると、虐待を受けた高齢者の「認知症の症状」が56.6%、虐待を行った家族などの「介護疲れ・介護ストレス」が54.2%、「精神状態の不安定さ」が47.0%と、上位を占めています。これらの要因から、介護を続ける家族などの心身の疲労が虐待につながることが見て取れます。
厚労省が調査した「高齢者虐待の防止に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果 より
また虐待を発見した場合、その発見者はすみやかに市町村に通報しなければなりません。(高齢者虐待防止法第7条)これは、高齢者虐待を防止し、早期に対策を講じるための重要な手段です。
高齢者虐待における対策
在宅介護において、大変な介護を1人で抱え込むと介護者は精神的にどんどんつらくなり、追い込まれた結果、虐待につながることもあります。対策としては誰でも相談しやすい環境づくりの整備に加え、虐待リスクがあるケースに行政等がリーチできる仕組みづくりが重要となります。
そのためには地域向けに虐待防止を呼び掛けるリーフレットを配ったり、専門家などの講習会を開くなどして住民で意識をもってもらうことが大切です。虐待防止法の中に、早期の通報義務が記されており、それらを幅広く知ってもらうことが虐待予防につながるでしょう。
また施設等で起こる虐待については閉ざされた環境も要因であるため、地域住民との積極的な交流を図ったり、外部からの介護相談員派遣事業を活用することで、「外部に開かれた施設」を目指すかたちも有効です。
研修や教育を実施し、法制度・介護技術・認知症への理解、職員のストレス対策、虐待事案が発生した場合の迅速な報告体制の整備なども進めることで介護者一人ひとりの虐待予防意識を高めることができます。
介護による困窮
高齢者の困窮の原因と背景
日本の高齢者の約25%が貧困ラインを下回る生活を送っていると言われおり、4人に1人が困窮で困っているということになります。
特に、未婚や離婚した女性の中には、その割合が50%にも上るとの報告があります。一方で、夫婦世帯の貧困率は約10%とされています。
これらの数値から高齢者がひとりで生活するには、公的年金だけでは余裕のある生活が難しく、今後年金が減少傾向のなか、貧困問題はさらに加速していく傾向が伺えます。また平均寿命の関係で女性が1人で長い期間を生きることが多いため、その結果貧困に陥りやすいという背景もあります。
高齢者の困窮における対策
高齢者の困窮に対する対策としては主に以下の3つがあげられます。
①社会保障制度の理解と活用:まずは社会保障制度、特に年金制度や医療制度などをしっかり理解し、困窮世帯に対するその他の支援も各自治体に聞きながら、適切に活用することが重要です。税制度や福祉サービスについても理解を深め、必要な支援を必要な時に迅速に受けられるようにする情報のアンテナをしっかりたてる必要があります。
②健康管理:貧困における大きな要因の一つに病気になることによる医療費負担があげられます。健康的な生活習慣を維持し、定期的な健康診断を受けることで、早期に病気を発見し、重度化予防の適切な治療を受けることが大切です。
③地域とのつながり:独居高齢者が増えるなか、できる限り孤立を予防していくことも重要になります。地域コミュニティとのつながりを強化し、互いに状況を確認できる状況をつくっていかなければなりません。人とのつながりを絶たないことで、何らかの支援に発展する可能性が高くなります。
まとめ
今回は高齢者の介護の問題について原因と対策について解説しました。今後も高齢者社会は益々進むため、深刻化する問題は多くあると思いますが、早い段階で対策したり、予防することで問題を軽くしたり防ぐことができます。
一人ひとりが自分ごととして家族や将来のために意識し、今から少しずつでも行動に移していただくことで現状の問題や将来が明るくなるかもしれません。
今回の記事を読んでいただいたことで少しでも悩みが解決したり、今後良い方向につながるきっかけになれば嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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